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(経済記事から)NO.5

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※ページ作成者 (有)柴立不動産 柴立俊朗

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記事‐5  目  次
NO. 記事年月日 記事元 見出し(記事内容)
70 2002/12/6 nikkei  デフレが蝕む データ編B
69 2002/12/4 nikkei  デフレが蝕む データ編@
68 2002/12/3 nikkei  銀行融資  中小・中堅向け3割減
67 2002/11/30 nikkei  日銀、株買い取り開始
66 2002/11/19 nikkei  「経済教室」脱・政府依存の経済再生を
65 2002/10/31 nikkei  「経済教室」 国民負担を考える
64 2002/10/23 nikkei  中国今年も最大 対米貿易黒字
63 2002/10/14 nikkei  金融危機、打つ手的外れ
62 2002/10/11 nikkei  大機小機
61 2002/10/2 nikkei  土地流通課税を軽減 


NO.70  2002/12/6(金) 日本経済新聞より

 デフレが蝕む データ編B
 土地資産 ピーク比965兆円減
 GDPの3倍、なお割高の見方も
 国の損益計算書や貸借対照表に当る内閣府の国民経済計算によると、日本の土地資産はバブル崩壊後の1990年末をピークに減り続け、2000年末までに965兆円の資産価値が失われた。地価はバブル前の80年代半ばの水準に戻った。

 資産デフレに照準を合わせた今年の経済財政白書は、土地から見込める収益に基づいて現在価格を割り出す「収益還元法」に基づく分析をしている。(グラフ参照)

 六大都市の商業地の場合、1996年に収益還元法に基づく理論価値と同水準まで現実の地価が下落。その後は理論価値を下回る状態が続いているという。地価下落に弾みがつき、下げ過ぎにつながったというわけだ。「土地はそろそろ下げ止まり」との主張はこうしたデータに根拠がある。

 だが、地価の調整は終わっていないとの指摘は依然多い。昨年末時点で日本の土地の時価総額は1444兆円(三菱証券推計)で、名目国内総生産(GDP)の約3倍。約5倍に達したバブル期に比べてかなり下がったとはいえ、米国の0.9倍、英国の1倍と比べるとなお高い。

 三菱証券の水野和夫チーフエコノミストは「工場の海外移転が続くうえ数年後に人口が減少に転じる。需要の減少に伴う地価下落は長期化する」と予測している。商業地に比べ下げが緩慢な住宅地には一段の下げ余地があるとの指摘もある。

 白書は利便性による地価の2極化も指摘している。以前は周辺の取引価格に合わせてほぼ決まっていた地価が立地条件などによって明確に差がつくようになったとしている。

 結果的に地価は地域の経済力との連動性が強まっている。今年の公示地価のうち商業地の地価を見ると、東京圏は前年に比べて下げ渋る一方、地方は大幅に下がった。同じ東京都千代田区内でも、もともと地価が高く好立地の場所は収益期待で値段が上昇に転じたところもあるのに対し、相対的に不便な地点は二ケタの下落が続いた。

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NO.69  2002/12/4(水) 日本経済新聞より

 デフレが蝕む データ編@
 「インフレの世紀」むしろ例外

 19世紀の欧米  物価30年下落
 1940年代からほぼ60年にわたって物価上昇が続いた20世紀は「インフレの世紀」でもあったが、長い歴史でみればむしろ例外的な時代といえる。例えば19世紀の世界の物価はほぼ100年にわたって安定的に推移した。

 特に注目されるのは19世紀後半。1870年ごろから1900年前後にかけて英独仏などの卸売物価指数は40%、米国では50%も下落した。30年にわたるデフレの最大の要因はグローバル化の進展だ。

 ポール・ケネディ著の「大国の興亡」によれば、1800年に欧州の列強が占領・支配していた植民地は世界の陸地の35%だったが、1878年には67%、1914年には84%を超えた。

 交通網の急発達で世界の距離が飛躍的に縮小、物流の改善が供給増を可能にした。1850年に米英独仏4カ国で71万トンだった商用蒸気船の登録トン数は1870年に3.4倍、1900年には16.5倍に増加。1850年に33000キロメートルだった4カ国合計の鉄道営業キロ数も1870年に4.3倍1900年には13倍になり、通商拡大を後押しした。ジュール・ベルヌが書いた「80日間世界一周」も1872年の世界が舞台だ。

 東西冷戦が終結した1990年代以降の世界も状況は似る。1990年からの10年で世界の国内総生産は20%増えたのに対し、世界の貿易額は60%増え、対外直接投資額は6倍に拡大。インターネットなど情報通信網の急速な発達が企業の国際的な調達やグローバルな研究開発体制の確立を促した。

 デフレ
 デフレーションの略。
モノやサービスの価格が継続的に下がる状態を指す。供給が需要を上回るとモノが売れにくくなり供給者は値段を下げて売ろうとするため価格が下がる。株や不動産の下落を「資産デフレ」と呼び区別することもある。
デフレ下ではモノの価値が下がり、相対的にカネの価値が上がるため、債務負担が実質的に膨らんだり、売上高が減ったりする。過剰債務を抱える企業や低収益力企業に大きな打撃となる。
 さらに名目成長率が実質成長率を下回るため、実質がプラス成長でも名目はマイナスになることがある。生活者の実感は名目成長率に近いとされ注目度が増している。
 政府は昨年3月、継続的な物価下落をデフレと定義、日本経済は「緩やかなデフレにある」と認めた。国際的には2年以上にわたる物価下落をデフレとするのが一般的。

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NO.68  2002/12/3(火) 日本経済新聞より

 銀行融資
 中小・中堅向け3割減
 日銀集計 5年で89兆円
 大企業向けは微減


 銀行が経営改善ために進めている融資圧縮の対象が中小・中堅企業に集中している。日銀によると、国内銀行の九月末融資残高は最近のピークだった1997年末と比べ、大企業向けが微減なのに対し、中小・中堅向けは約八十九兆円減で融資額の3割近くが減った。政府の不良債権処理加速でさらに減る可能性もあり、融資の確保を巡る論議が強まりそうだ。
 9月末の企業向け融資残高は合計で約315兆円。97年末からの減少額は約92兆円で、その大半を中小・中堅企業向けが占めた。

 銀行は中小・中堅向け融資の激減について「親会社が子会社向け融資を肩代わり返済する例も多い」(大手銀幹部)と説明する

 だが経営体力が弱い中小・中堅企業は信用リスクが大きいうえ、「破たん時に銀行への影響が大きい大企業に比べ、中小・中堅企業は融資を切りやすい」(クレディ・スイス・ファースト・ボストン証券の小原由紀子ディレクター)面も影響している。

 政府は「金融再生プログラムに」中小企業向け融資への配慮を盛り込んだ。だが99年の大手銀行への公的資金注入時に課した経営健全化計画でも中小企業向け融資の目標設定を義務付けたが、UFJホールディングスとあさひ銀行が融資を激減させたとして業務改善命令を受けた。

 このため「銀行が不良債権処理を急いで融資先の選別を強めれば、いずれ中小・中堅向けを減らさざるを得なくなる」との見方が大勢。市場では「政府の不良債権処理加速策と中小・中堅向け融資の拡大は矛盾する」との声も根強い。

 日銀も中小企業の売掛債権の証券化を促す策などを検討しているが、実効性は未知数。中小・中堅企業の経営悪化は景気下振れを招きかねず、金融機関の前向きな融資姿勢と政策面での対応が課題になっている。

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NO.67  2002/11/30(土) 日本経済新聞より

 日銀、株買い取り開始

 日銀は29日、金融安定化策の一環である銀行保有株の買い取りを始めた。同日から日銀の委託を受けた信託銀行が受付を開始。日銀は申し込み状況を公表していないが、りそなホールディングス、三井トラスト・ホールディングス傘下の銀行などが申し込んだ。

 日銀の計画によると、買い取り総額は、二兆円。来年九月までに総額が二兆円に満たない場合は、最長一年間延長する。日銀は買い取り対象行も公表していないが、中核的な自己資本規模を上回って株式を保有している大手中心の十行程度と見られる。

 日銀は株の買い取り残高を、十日ごとに発表する営業毎旬報告で示す。

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NO.66  2002/11/19(火) 日本経済新聞より

 〔経済教室〕
 脱・政府依存の経済再生を
 国債、信任揺らぐ
 マクロ経済政策に限界

           富田俊基 《野村総合研究所 研究理事》

 マクロ経済政策への依存をさらに強めようという動きがあるが、国債のおびただしい累増の弊害を軽視すべきではない。財政の持続可能性が揺らげば、資本流出などが生じる恐れがある。構造改革を再び先送りせず、政府依存ではなく民間の力で経済再生を図るべきである。
 国債残高の累増直視を
 驚くべきことに、わが国の国債残高の国内総生産(GDP)比は第2次世界大戦末期の日本や米国の水準にまで上昇している。グラフに見るように、2001年度末の国債と借入金の残高のGDP比は120%にのぼり、日米のミッドウェー海戦のあった1942年の105%を超え、学徒出陣のあった1943年の133%に迫ろうとしている。

 しかも1990年代以降は、高橋是清財政期(1931−36年)や米国のニューディール政策期(1933−37年)という、典型的なケインズ政策が実行されたといわれる時期よりも、急速なテンポで国債が累増を続けている。さらに今後も、高齢化の進展による社会保障費や不良債権処理など不可避の支出増加だけを考慮しても、急速な国債累増が当分、続かざるをえないであろう。

 このため、国内で最も信用力の高い金融資産である日本国債の国際的な信用はすでに揺らいでいる。日本国債には、スペインやイタリアの円建て国債よりも高い金利が付いており、国際金融市場ではすでにリスクプレミアム(リスクに伴う割り増し金利)を求められているのである。

 しかし、日本国内では金利がきわめて低水準で推移しているからであろうか、国債残高がおびただしく累増し、しかも、著しく速いテンポで拡大を続けることがもたらすであろう弊害が、切迫感をもって議論されていない。

 今日の低金利は、統制によるものではない。国内金融市場は自由化され国債資本移動も自由である。内外の金融資本市場の間で裁定されたうえで成立している長期国債の金利は、フイッシャーの方程式にしたがって表現すれば、日本経済の長期的な成長率と期待インフレ率がともにきわめて低いという市場の予想を反映していることになる。

 また、長期金利は将来にわたる短期金利の予想平均値で決まるという考え方(金利のタームストラクチャー仮説)に立つと、長期国債の金利がきわめて低い水準であるということは、今後かなり長期間にわたって短期金利がゼロ近傍で推移し続けるであろうという市場の予想を反映したものである。

 実際、2001年3月からの量的金融緩和政策のもとで、ゼロ金利が少しずつ満期の長い国債に波及してきた。

 このようにしてイールドカーブ(利回り曲線)のフラット(傾きの平坦)化が進行し、長期金利は歴史上まれな低い水準で推移している。ペイオフ(預金などの払い戻し保障額を元本一千万円とその利息までとする措置)解禁が凍結され、預金流入が続く銀行も大量に国債を購入しており、将来にわたる金利の低位安定を望まざるをえない状況に陥っている。

 量的緩和政策によって流動性の供給増加が続いているが、長期金利に織り込まれるはずのインフレ期待は醸成されず、逆に封じ込まれているといって過言ではない。

 インフレ目標政策にも限界
 このため、一定期間後に一定のインフレ率を実現しようという、インフレ目標政策が提唱されている。どのような方法で実現可能なのかは疑問であるが、かりにこの考え方が実施に移されて、推進論者の想定通りに期待インフレ率が上昇したとすると、長期金利はある程度、上昇に向かうであろう。

 しかし、インフレ目標の実現に向けて、日銀による国債引き受けや、社債、株式、不動産などの購入といった比正統的な方法がなりふりかまわずに採用されると、国を挙げて国債をインフレで削減しようとしているのではないかと市場が予想し、日本国債により大きいリスクプレミアムが求めれれる懸念なしとしない。この場合、インフレ目標政策の推進論者が期待する実質金利の低下は見込みがたい。

 こうしたインフレ目標政策の限界を踏まえてであろうが、流動性の罠に陥り金融政策の有効性が低下している現状での選択肢として、非リカード的財政政策が提唱されている。

 リカードは、景気対策を行っても、その財源は将来の増税でまかなわれると国民が予想するので効果がない、という合理的な期待が働く世界を想定していた。これに対して、非リカード的政策は、将来に増税を行わないという政府の約束によって国民の予想を変えることで、景気対策が効果を持ちうるという考え方である。

 これは、物価下落の原因を、国債に価格上昇(金利低下)の余地がほとんどないにもかかわらず、国債が買い進まれていることにあると考え、財政再建を行わないと約束して国債の信用を低下させることによって、デフレから脱却しようという主張である。

 しかし、非リカード的政策によって、デフレから脱却できたと言う事例を筆者は寡聞にして知らない。国債が高水準にまで累増した状態で、減税や財政支出の拡大を行うと、非リカード的政策のねらいとは逆に、そしてリカードの影響が出ないという世界を超えて、かえって景気に深刻な影響を及ぼす危険が高いことに留意する必要がある。

 国民は、財政の持続可能性に強い懸念を持ち、「最後の審判の日」が近づいたと感じるようになる。国債の負担を将来世代に転嫁することができず、自らに増税や年金、医療、教育など諸制度の崩壊の負担が降りかかってくると、ついに悟らざるを得なくなる。

 すると、将来にわたる可処分所得の現在価値が低下し、個人消費が抑制される。加えて、国債により大きいリスクプレミアムが求められるようになり、資本流出が加速し、これらが金利の上昇を通じて民間投資などに悪影響を与える。

 これが、非ケインズ効果と呼ばれる現象であり、90―93年のスウェーデンや92―95年のイタリアなどで発生した。

 今こそ民間の力を引き出せ

 わが国は、92年8月以降、累計で12回、140兆円もの景気対策を発動してきた。また、日本銀行の負債であるマネタリーベースのGDP比は、量的緩和政策のもとで急上昇し、戦時期を除いて日銀創設以来の高水準に達している。これらのマクロ経済政策で日本経済が持続可能な成長経路に復帰できたわけではない。

 冷戦の終えん、そして情報通信技術の革新という世界レベルでの大きな産業構造の変化に直面してきたわけだから、企業も家計もそれへの対応を積極的に進めねばならなかった。しかし、時間稼ぎのためといってマクロ経済政策の総動員を繰り返し、自助努力を怠ってきたのではないか。このため、産業の新陳代謝が進まず、非効率な産業が温存され、解決すべき問題の先送りが続いた。

 それにもかかわらず、レジームチェンジ(体制転換)と称して、マクロ経済政策への依存をさらに強めようとする動きがある。上述の手段を選ばないインフレ目標政策や、国債の信認を揺るがせる非リカード的財政政策の影響は、不確定、不確実でリスクがきわめて大きい、税制改革について、多年度税収中立を図るという小泉純一郎首相の指示は、非ケインズ効果を発現させないために将来の増税に言及せざるを得ないという、ぎりぎりの選択ではないか。

 わが国はマクロ経済政策という政策資源をほぼ使い果たしてしまったが、民間の力を最大限に引き出すための構造改革が残っている。今こそ、国家総動員体制ともいうべきマクロ経済政策への依存症から脱却し、市場経済と民主主義の原点である自立、自助の精神に立ち返るべきである。

         47年生まれ。関西学院大卒 京都大経済学博士

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NO.65  2002/10/31(木) 日本経済新聞より

 〔経済教室〕
 国民負担を考える
 改革怠れば巨額債務の道
 中長期の危機感を
 歳出削減の痛み、緩和可能
 
 
跡田 直澄 《慶応義塾大学教授》
 
 歳出見直しを伴う構造改革を行わなければ、国民負担率の急上昇と、国と地方で700兆円に及ぶ債務残高の拡大を招く。「痛み」は民間中心の需要創出で緩和可能だ。経済成長率を高める税制改革も不可欠だ。

 支出の内容が時代に合わず
 
 国に50兆円。地方に35兆円。構造不況が続くなか、国民はこれだけの税負担を強いられている。これに社会保障負担を加えた総負担を国民所得で割った国民負担率は35%ほどで、米国とほぼ同じ水準である。

 政府は140兆円規模の税・社会保険料収入の他に、公債発行により40兆円規模の借り入れを行い、それを原資に約180兆円の支出をしている。借り入れは累積し、現在では国と地方合わせて700兆円に及ぶ。にもかかわらず、多くの国民は豊かさを実感できない。これだけの赤字を抱えて支出をしながら、国民に満足感を与えられず、景気回復のめどさえ立たないのであるから、支出の内容が、新たな時代の要請にあまりにもマッチしていないのはもはや明らかである。

 この状況を踏まえて小泉純一郎内閣は、質の高い経済成長を持続できるようにするため、財政改革を通じた経済構造改革を行おうとしている。もしここで改革を中断し、旧来どおりの財政支出を行っていけば、政府の長期債務は年間40兆円規模で増加し、5年後には900兆円を越す長期債務を抱えることになる。

 更に、最終的に税金を投入せざるを得なくなる債務もかなりある、たとえば、これからはじめる不良債権処理に伴う公的資金、財投機関の抱える不良債権などは、数十兆円のオーダーになる。これだけの債務をすべて増税で返済しようとするならば、50年返済と考えても元利を含めて単年度で58兆円近い増税をしなければならない。これを消費税で全額まかなうとすれば実に29%引き上げなければならない。

 単なる増税路線で財政再建を図ることは不可能なのだ。思い切った財政改革により構造改革を推し進め、潜在的成長力を高め、少なくとも4から5%の成長を4、5年続けられるだけの状況を作り出さなければ財政健全化は2050年でも不可能なことは明らかだ。

 単なる増税で債務削減はムリ

 これに加えて、わが国には少子高齢化という財政を悪化させるもう一つの要素がある。右肩上がりの経済成長の下で作り上げられた公的年金及び老人医療・福祉制度を小幅な改革で済ませてしまえば、2025年までには保険料負担で6%ほど、公費負担で3.5%ほど国民負担率を増大せざるをえなくなる。この合計を消費税に直せば18%ほどの引き上げになる。

 2025年までに財政を健全化し、高齢化の財源も完全に準備するためには、消費税率を52%にしなければならなくなる。逆に負担を抑え、赤字を垂れ流していけば、筆者の推計では、表に示したようにピーク時の国民負担率は2021年時点で約50%、2030年の債務残高は3333兆円になる。改革しないことが日本経済をいかにゆがめるかがこれで明らかであろう。

財政の長期推計(筆者推計)
改革のパターン ピーク時国民負担率
(うち社会保険負担率)
ピーク時
債務残高
改革なし 49.8%(26.3%) 2021 3333兆円 2030
増税のみ 72.6%(25.7%) 2025 1307 2024
増税+医療改革
+年金改革
59.8%(22.2%) 2025 1256 2024
歳出削減+短期財政中立型減税・長期増税+医療改革+年金改革 52.3%(22.7%) 2021 987 2011
(前提) 一人当たり実質GDP成長率1%、物価上昇率0%、公債費:利子率2.6%、償還率2.7%
(改革案) 消費税率引き上げ、公債と社会保険政府負担を除く歳出を毎年3%削減、年金では2004年より報酬比例の廃止、医療の自己負担率を本人2割・扶養家族3割に引き上げ

 また、多年度税収中立の税制改革は後に単なる増税路線となるので、2025年のピーク時の国民負担率は実に約73%となり、それでも債務残高は2024年のピーク時で約1300兆円残る。構造改革による経済成長を考えない税収中立型増税路線をとることは改革をしない場合と同様の悲劇的な結果をもたらす。

 さらに、医療・年金改革を徹底的に進めたとしても、増税路線を歩むならば、2025年のピーク時の国民負担率はなお約60%、ピーク時の債務残高はほぼ1300兆円で、増税路線のみと変わらない。医療・年金といった社会保障改革が国民負担率削減にかなり貢献することは明らかだが、増税路線のみではやはり財務残高の大幅な削減にはつながらないない。

 債務残高を大幅に削減し、財政の健全化を模索していく場合、避けて通れない改革は歳出削減である。その規模は2006年度までは国内総生産(GDP)の増加率と同一に抑制、2007年度以降は投資的経費で前年比3%、人件費で0.5%、物件費で1%、公債費と社会保険公費負担以外の歳出で3%ほどの削減を7年間続ける。

 これだけの歳出削減とともに、財政中立型の税制改革も実施する必要がある。その中身は、公共投資の削減に対して民間投資を促進し技術革新を進めるため、制度減税としての法人税率の引き下げと、できるだけ幅広い投資減税および試験研究費に対する政策減税の3年ほどの実施である。その後、財政中立を達成するための増税を消費税により行っていく。

 こうした改革を社会保障改革とともに行っていくと、成長率がたとえ実質1%、物価上昇率が0%でも、2021年のピーク時の国民負担率は52%程度となり、ピーク時の債務残高も2011年度で990兆円程度まで低下する。ピーク時の債務残高は2002年度末の700兆円よりは増大しているが、少なくともその2011年以降減少する傾向にある。

 法人税改革を中心とした財政中立型税制改革の実施により経済成長率が高まれば、債務残高はより小さくなるし、国民負担率もより低くできるであろう。中長期的にみるならば、税・社会保障の改革によって、こうした姿を作り出すことは可能である。
 
 需要の創出 公から民へ

 したがって、目先の景気対策しか考慮しない税制改革や補正予算は将来にツケを回すだけだある。いま考えるべきことは中長期的に見た日本経済の活性化であるから、それを実現するには、財政改革による短期的な痛みをどのように和らげながら分かち合うかということである。

 歳出削減は政府による需要創出を低下させ、公共投資に依存していた企業にとっては売り上げの減少となる。しかし、政府が行うはずであった公共投資分の需要を、例えば民間と政府が共同して特定目的会社を設立し、PFI(民間資金を活用した社会資本整備)で補えば、公共事業に依存していた建設関係企業も業績を維持することは可能だ。公共投資削減を新たなビジネスチャンスと捉えなおして積極的な事業展開をはかれば、痛みを大きく緩和できる。

 医療改革でも、自己負担の引き上げや診療報酬明細書(レセプト)審査の強化などを行えば、公的医療費が削減され、高齢者の医療受信が抑制される。これは過剰な通院や薬剤使用をなくさせる側面で、不安も持たせることになるが、例えば自治体と非営利組織(NPO)が共同して高齢者が疾病について相談をできる機会を設ければ、その痛みは緩和される。

 医療供給側の診療報酬の低下という痛みに対しても、自由診療を幅広く認め、保険診療枠以外の医療の供給も一部に導入すれば、高齢者の数は今後急速に増大するのだから、高度な医療も提供でき、医療産業が規制から解き放たれ、大きく発展することになろう。

 右肩上がりの経済成長の下で作り上げられた税・財政・社会保障システムはもはや限界に来ている。いま徹底的な改革を行わなければ、700兆円の長期債務だけでなくさらなる債務を次世代に残す。子孫に美田を残すのではなく、巨額の借金と意味のない社会資本を残すばかりとなってしまった財政システムを抜本的に改革することが、今政策決定に携わっている人々の使命である。

 これを妨げようとするものは、意思決定のプロセスから退場させなければ、日本経済は再び立ち上がることができなくなる。真の改革を進めるには、こうした危機意識の共有化が不可欠である
 《54年生まれ。学習院大卒、大阪大大学院終了。専門は財政・公共経済》

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NO.64  2002/10/23(水) 日本経済新聞より

 対米貿易黒字
 中国、今年も最大
 3年連続 輸出額も日本猛追


 【ワシントン=吉田透】
 米国の貿易相手国・地域のうち、中国が3年連続で最大の対米貿易黒字国となる公算が大きくなってきた。米商務省によると、今年1−8月の同国の対米貿易黒字額は前年同期比20.1%増の633億ドル(約7兆9000億円)で、すでに第二位の日本の1.4倍に膨らんでいる。

 米国に対する最大の貿易黒字国は長らく日本だったが、2000年に中国が初めて首位の座を奪い、翌年もキープ。今年も黒字拡大基調は続いており、八月には単月で過去最大の黒字(109億ドル)を記録した。

 対米輸出額は昨年まで日本を下回っていたが、今年は8月までの累計額が772億ドルで日本の788億ドルに接近。

 7−8月の勢いで輸出が増え続けると、日本を初めて追い越す可能性も出てきた。

 米国向け輸出品は電気製品や産業機械など付加価値の高い製品にシフトしつつあり、米国にとって中国経済の存在感は一段と高まりつつある。

 貿易不均衡の拡大にもかかわらず、現時点では米中間での深刻な通商摩擦は起きていない。中国政府が昨年の世界貿易機関(WTO)加盟時に公約した市場開放策の実行に前向きな姿勢を示しているうえ、米企業の対中投資も順調に伸び続けているためだ。

 だが米議会内には中国警戒論が潜在的にくすぶっている。米産業界から市場開放の遅れについて苦情が目立ち始めれば、摩擦が激しくなる恐れもある。

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NO.63  2002/10/14(月) 日本経済新聞より

 堂々巡り  金融危機、打つ手的外れ


 国会の本会議で、首相指名選挙や重要法案の採決に当たって採用される記名投票を俗に「堂々巡り」と呼ぶ。名前を呼ばれた議員が順番に登壇し、議長の正面に控えた職員に名札と賛否の木札を手渡して自席に戻るのである。内閣の首班も法案の成否もここで決まるが、不良債権をめぐる議論は相も変らぬ堂々巡り、誰もがデジャ・ビュ(既視体験)に陥る。

 不良債権処理へサマーズ書簡

 一見すると二つのコメントは極めてよく似ている。
 「日本の銀行は過小資本だ。不良資産の引き当て状況の改善が必要となる。公的資金注入は、幹部更迭など業務の再構築を条件にしなければならない」
 「自己資本の充実、資産査定の厳格化、銀行経営の確立が必要だ」
 前者はラリー・サマーズ米財務副長官(当事)が1999年1月、柳沢伯夫・金融再生委員長に送った書簡。後者は竹中平蔵経済財政・金融担当相が三日の記者会見で述べたものである。

 97年秋、山一證券の自主廃業、北海道拓殖銀行の破綻と、日本経済を戦後初の金融危機が襲うと、政治家も困惑するばかりだった。

 「日本発の世界恐慌」を恐れた米クリントン政権は「日本に経済顧問を派遣してもいい」とまで漏らし。日米関係も険悪化する。それから5年。何週もの堂々巡りを繰り返した後、金融問題はサマーズ氏が指摘した論点に戻った。

サマーズ案の中で、日米の風土の違いを際立たせているのは経営責任論の扱いかもしれない。つい最近も自民党幹部の一人は機中でたまたま隣り合わせた銀行首脳にねじを巻かれた。「そんなことしたら大変ですよ。我々だけではなくて前の経営者の問題になる」

 いつの間にか選挙区対策に

 「3月危機」がささやかれていた今年はじめ、小泉純一郎首相は腹立たしげに官僚の説明をさえぎった。「君らがインフレは値段が上がるからダメだというし、デフレは下がるからダメだという。どっちがいいんだ。どっちもダメなのか」

 ほぼ20年前の水準まで下落した株安を前に、首相も最近こそ発言を慎重にしているが、しばらく前までは「去年の九月危機も、今年の三月危機も起こらなかった」と、「危機は杞憂(きゆう)にすぎない」といわんばかりだった。

 首相だけではない。金融問題は緊縮財政と不況が重なったときに表面化する。すると政治家は、行政府の領域に属する財政に関心を向け「景気対策」か「財政規律」かの論争を繰り広げる。金融問題のはずが、有力議員の選挙区や関係団体を意識した対策に変質し、金融は専門家だけの「特殊な分野」としてうち捨てられるばかりだ。

 梶山私案変質 甘かった読み

 97年末、榊原英資財務官が「金融危機管理審査委員会」への「コリガン起用案」を持って、無役の梶山静六元官房長官を訪ねたのには理由がある。

 この直前、梶山氏は新型国債を財源に、戦後初めて10兆円の公的資金を銀行に投入する私案を発表していた。驚いた大蔵省と自民党執行部は宮沢喜一元首相を担ぎ出して「金融システム安定化本部」(宮沢委員会)を設置し、10兆円を「見せ金」とする交付国債を使ったスキームを作る。梶山氏は「似て非なるものだ」と怒った。

 「見せ金」にとどまると見ていた大蔵省の読みは甘かった。98年3月の資本注入以来、10兆円はほぼ底をつき「まさか本当に枠を使い切るとは思わなかった」(財務相幹部)ところまできた。

 そして日本経済はグローバルからローカルな存在になりつつある。米国際経済研究所(IIE)のボーゼン上級研究員は言い切った。「日本経済が破綻しても世界的な危機につながるとは思わない」


サマーズ書簡の主な内容

 ◎邦銀は過小資本
 ◎金融早期健全化法の運用には三つの問題点が存在
  
   1.注入申請額の過小性=申請額は必要推定額の数分の一。優良行は自力調達が本来的な対応。ソルベンシー(支払能力)危機のふちにある大多数の銀行は申請額の引き上げが必要。債務超過で支払能力のなくなった(インソルベント)銀行はクローズすべき

   2.徹底した業務再構築を前提としない資本注入=不良資産の償却(直接、間接)、業務再構築の策定(合併、店舗閉鎖、職員数の圧縮、減配、幹部更迭など)を注入の条件化

   3.注入の形態=普通株の官民からの増資引き受けが基本。優先株は不良債権の損失吸収力に制約があり、バランスシートの浄化、市場の信認回復は困難。緩い条件での引き受けはモラルハザードを増幅する。既存株主はむしろ実質減資されるべき

 ◎不良債権のディスクロージャー、引き当て状況の改善が必要

   ・株式評価方法、不良資産分類基準、引き当て基準などの見直しを即刻、実施すべき

   ・第2分類資産の引き当ては20%弱が妥当。早急な原価法の見直し。ノンバンク向け与信管理問題の解決。

   ・不良資産(担保不動産)の流動化

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NO.62  2002/10/11(金) 日本経済新聞 「大機小機」より

 インフレ目標論への疑問
 
 不良債権処理とデフレ対策をめぐる議論が百家”騒乱”の相を呈してきた。一部の学者、エコノミスト、政治家が提唱するインフレ目標論は、最大級の危機感を土台にしたものといえる。危機の認識の一点で共感するものの、その処方箋には大いに疑問がある。

 日本経済を取り巻くデフレ圧力については、もはや多言要すまい。その中で不良債権処理を加速しようというのである。恐慌はなんとしても避けねばならないとすれば、デフレ緩和の政策要求は疑問の余地のない議論に思える。

 しかし、「デフレは貨幣的現象だから金融政策で対応せよ」というのは単純すぎる。金融を指すことが多い「ファイナンス」の訳語は金融、財政、財務であり、金融が独立して存在するかのような議論はまやかしである。

 まやかしから出発するかどうかは論者で異なるにせよ、日銀を標的にしたインフレ政策の要求は今でも人気絶大だ。インフレがデフレより好まれるのは安易だからだが、通常のインフレを政策的に起こすことが難しいため、インフレ目標論の主張は通貨価値の破壊に等しいものになる。

 そこまで行けば、これから迎える危機の極致を、インフレで迎えるか、デフレで迎えるかの選択を視野に入れた議論が必要になる。どこまで制御可能かは未知数だが、極論すれば、ハイパーインフレか、恐慌かの選択といえる。

 インフレの極致のハイパーインフレの経済効果が債権債務の蒸発ならば、デフレの極致の恐慌は破産による債権債務の清算である。ともに被害者は広範に及ぶが、個別に法的な責任問題の多発が想定されるかどうかの違いがある。ここでも、インフレは安易な問題解決法に見える。

 もう一つの決定的相違は、恐慌は通貨価値が究極の高みに上り詰める現象である点だ。これは政府と中央銀行を後ろ盾とする国家信用の信認を意味する。ハイパーインフレによる国家信用の破壊とは、政策余地が無に帰すか、多少なりとも残るかという天と地の違いがある。

 体制(国家と国民)にとって本質的な危機は、政府の信任を意味する恐慌ではなく、国家信用とともに社会の価値観と規範が崩壊する無秩序状態だ。インフレ目標論者に聞きたい。あなたの主張は国家信用の破壊を意図したものではないのか、ならばそれによってあなたは何を守ろうとしているのか、と   (渾沌)

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NO.61  2002/10/2(水) 日本経済新聞より

 土地流通課税を軽減

 登録免許税など 
 先行減税の柱に
 財務相ら検討表明

 政府は登録免許税(国税)など土地の購入時にかかる流通課税の軽減を検討する。塩川正十郎財務相は一日、日本経済新聞記者に対し「不動産取得税(都道府県税)や登録免許税はある程度改正したい」と明言。政府税制調査会の石弘光会長も同日、「土地流通課税の軽減を検討する」と述べた。企業減税に加え、来年度に実施する一兆円超の先行減税の柱として議論が進む見通しだ。

 土地には購入・保有・売却の各段階で国税、地方税の様々な税負担がかかる。特に購入時にかかる登録免許税と不動産取得税の負担が不動産投資を妨げ、地価の下落を加速しているとの見方が経済界などで強い。塩川財務相はこうした税負担を軽くし、土地取引を活発にすることでデフレに歯止めをかけたい考えだ。

 登録免許税、不動産取得税は固定資産税評価額を基準に税率をかけ算出。税収はそれぞれ年六千億円弱。税率引き下げや課税対象となる評価額への軽減措置の導入が検討対象となる見込みだ。

 政府は来年度の先行減税について企業向けの政策減税を中心に検討してきたが、一日会見した石会長は「企業減税だけではおのずと規模に限界がある」と指摘。経済活性化に向けて減税規模の拡大を検討するためにも、新たに土地税制の軽減を検討することが必要との認識を示した。

 土地は購入時だけでなく、保有するだけで固定資産税(市町村税)などがかかるほか、個人が土地を売却する際には譲渡益にも課税される。固定資産税だけで年約九兆円の税収があり、市町村税収全体の45%を占める。

 
 きょうのことば
  
 【土地流通課税】

 ▽・・・土地の購入や売却にかかる税。特に購入時に課税する登録免許税(国税)と不動産取得税(都道府県税)の2税を指す。与党内や経済界からは、土地取引への課税が不動産投資を阻害し、地価下落に追い打ちをかけているとの批判が出ている。

 ▽・・・土地は売却段階でも譲渡益に課税される。例えば個人が5年を超えて保有した土地を売却する際には税率26%(地方税含む)で譲渡益に課税される。株式譲渡益課税の税率が来年1月に現行の26%(同)から20%に下がるため、土地譲渡益にも株式並みに軽減するよう求める声も与党内に強い。

  土地にかかる主な税目

   〈取得段階〉
      登録免許税(国税)
      不動産取得税(都道府県税)
   〈保有段階〉
      固定資産税(市町村税)
      都市計画税(市町村税) 
      特別土地保有税(市町村税)
   〈売却段階〉
      個人の譲渡益課税〈法人は法人税の中で課税〉

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